麻すいのおと

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麻酔の勉強の記録です。

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【基礎知識】局所麻酔薬中毒について

局所麻酔薬中毒(LAST)は、日常診療でほとんど起きないものの、発症してしまうと心停止に至りうる恐ろしい病態です。

神経ブロックや硬膜外無痛分娩がどんどん普及していくと思われますが、有事の際には責任をもって対応できるように、局所麻酔薬中毒について知っておくべきと考えます。そこで今回、まとめてみました。

参考となる資料
術中心停止に対するプラクティカルガイド
局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド

 

LASTはどれくらい発症しているのか?

AURORAのデータレビュー, Reg Anesth Pain Med.2013;38(4):289によると、末梢神経ブロック約25300件のうち、LASTの発生は0.87/1000件。重度のLASTは8人に発生(0.31/1000件)。7人が中枢神経症状、1人が心停止。

LASTの症状は非常に多彩である

局所麻酔中毒の症状とは、古典的には「注射後すぐ発症」「神経系の興奮・抑制→心血管の興奮→心血管の抑制・心停止に至る」というもの。

<中枢神経症状(CNS)>
舌・口唇の痺れ、金属様の味覚、多弁、呂律困難、興奮、痙攣など

<心血管系症状(CC)>
高血圧、頻脈、PVC、洞性徐脈、伝導障害、心静止など

LASTは遅く発症することもある

Reg Anesth Pain Med. 2010:35:181-7によると、LASTと診断された93件のうち、古典的症状を示したのは60%にすぎなかった。他は遅発性発症やCC症状のみの症例だった。

Reg Anesth Pain Med. 2015:40:698-705によると、注入後にLASTが生じるまでの時間は、10分以内が58%, 10分以降が42%、60分以上経過後の発症ですら10%存在した。

Anesth Analg. 2003;97:412-416によると、0.5%ロピバカインを⾎管内注⼊し、中枢神経症状が出現しはじめる投与量は39.2±17.54mg(つまり、だいたい8mLくらい)であった。…0.25%なら16mL, 0.15%なら26mL, 0.08%なら50mLという計算になる。また、症状出現までの時間は3.7±0.85分だった。

LASTを予防するために

<発症しやすい患者層>
アシドーシス、新生児/乳児、肝障害(エステル型使用時は注意)、心不全(組織での局所麻酔薬のウォッシュアウトが遅い)

<予防の方法>
①量を減らす:FDAが最も推奨している

※一般的によく使う局所麻酔薬の極量
メピバカイン:7mg/kg
ブピバカイン:2mg/kg
ロピバカイン:3mg/kg
レボブピバカイン:3mg/kg
リドカイン:4mg/kg

②少量分割にする
③リスクが少ないLAを使う:ロピバカイン、レボブピバカイン

※リスクが少ないとは?心毒性が比較的少なく、CCの前にCNSが出て「LASTかも!?」と気付けること。
症状が出る用量の比率(:CC/CNS比)が高いほどCNS症状が先に出て、心停止を防げる。
低い順に、ブピバカイン(1.6)→レボブピバカイン→ロピバカイン→リドカイン(3.6)で、この順で心毒性がある。

④吸引テストをする(特異度は高いが感度は低い。偽陰性は高い)
⑤アドレナリンを添加する(感度は高くスクリーニングとして有用)
⑥超音波ガイド下にする(LASTリスク低減に関連。Odds Ratio 0.36! by Reg Anesth Pain Med.2013;38(4):289)

<盲点>
投与経路がiv以外の場合があり、認識していないうちに局所麻酔薬が体内に入っているかもしれない。
粘膜へ使用する塗布型のリドカイン、気管内散布するリドカイン、エムラ(EMLA)クリームなど。
※8%リドカインのスプレーは1push 8mg。9mg/kgまでという制限がある(Anesthesia 2020)
これらでもLASTの報告があるため、安全と言い切れない

LASTの治療

①局所麻酔薬を中止する
②人を呼ぶ。気道・呼吸・循環を確保する
③脂肪乳剤によるLipd rescue。下記参照
④痙攣治療はベンゾジアゼピンプロポフォールを使用できる
不整脈治療目的でのリドカインは避け、アミオダロンを優先する
プロポフォールは痙攣治療には使える。脂肪濃度が低く(10%)、Lipid rescueとして使用できない
⑦生命予後は基本的に良いので決してあきらめない!一時的な体外循環は適応がある

Lipd rescueのプロトコル

イントラリピッド:20%脂肪乳剤を使用。

プロトコル1> 成人
①500mL/10min, 安定後も10minは続けること
②かつボーラスiv 100mLを3回 5分毎に入れる

プロトコル2> 成人
①1.5mL/kg iv ➡ 15mL/kg/h
~5min後~
②1.5mL/kg iv ➡ 30mL/kg/h
~5min後~
③1.5mL/kg iv ➡ 30mL/kg/h
安定してから10min継続
最大量は12mL/kg

プロトコル3> 小児
0.25mL/kg/min 30-60minかけて投与
最大量は12mL/kg(60minまで!)

Lipid Rescue

LASTによる心停止時

アルゴリズム術中心停止に対するプラクティカルガイド参照。
局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイドによると、アドレナリンは通常通りでよいとされている。ASRAは「アドレナリンは< 1 μg/kg にすること」という文言があるが、これにこだわらないこと、とのこと。

 

以上です。参考になれば幸いです。