麻すいのおと

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麻酔の勉強の記録です。

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【基礎知識】甲状腺クリーゼについて

先日、バセドウ病でコントロールが良くない患者の全身麻酔をしました。術中どんどん頻脈になって怖い思いをしたので、甲状腺クリーゼについて復習しました。

 

甲状腺機能亢進症の術前の状態

頻脈、循環血漿量増加、心収縮力増加、血管抵抗低下
交感神経アゲアゲ➡不整脈、冠動脈攣縮・心筋虚血・心筋症
呼吸筋力疲労➡抜管注意

 

甲状腺クリーゼ

術中というより、術後6-18時間に発生することが多い。術後の方が重要。甲状腺の手術やそれ以外でも「手術、ストレス、感染症」などの誘因で発症する。
※UpToDate「術前からの抗甲状腺治療の患者では、術中発生率は非常に低い」

 

全身麻酔患者での鑑別は…悪性高熱症!(高熱・頻脈)
従って、そもそも吸入麻酔は避けた方が鑑別が減って妥当な選択かも?TIVAの場合、プロポフォール代謝が早いので必要量が増加する。

 

甲状腺クリーゼの診断

甲状腺クリーゼの日本のガイドライン(2017)を参照すると

diagnosis of thyroid storm

甲状腺クリーゼの治療

甲状腺クリーゼの治療は以下8つ
ガイドライン2017、およびSUMノートを参照)

treatment of thyroid storm

drug

①体温冷却・解熱薬

ただし、NSAIDsは避ける!甲状腺ホルモン結合タンパクに作用し、遊離型甲状腺ホルモンを上昇させる。

②生食とブドウ糖、ビタミンB複合体

高血糖にも低血糖にもなる。インスリン代謝遅延、肝での糖新生阻害などが影響し低血糖になる

③抗甲状腺薬 ホルモン合成阻害

チアマゾール MMI:注射薬あり
プロピルチオウラシル PTU:錠剤 胃管から投与

④無機ヨード(ホルモン分泌阻害、ヨードの有機化阻害、合成低下)

ヨウ化カリウム錠の投与。抗甲状腺薬投与の1時間以内には投与しないこと。ルゴール液は外用薬だが、ガイドライン的には治療薬として経口投与できる、となっている。

⑤βブロッカー

末梢でのT4→T3を阻害する。β1選択性を有するべき。プロプラノロールは×、ランジオロール、エスモロールがよい。経口ではビソプロロール。
※UpToDateでは、1にプロプラノロール、2にエスモロールとなっています

<用量>

・ランジオロール1-10γ
エスモロール1mg/kg iv 適宜
・ビソプロロール2.5-5mg/day po

目標:HR130以下
指標:HR<80, BP<80, CI<2.2で中止を考慮
代替薬:喘息患者では要注意。ベラパミル、ジルチアゼムへの切り替え

⑥Af発症時は抗不整脈

ジギタリス 0.125-0.25mg iv
 血行動態不安定なら(左房内血栓除外の上)電気的除細動→Ia,Ic群薬
・アミオダロンを使ってもよい(アミオダロンはT4→T3を阻害する)
 アミオダロンがクリーゼを引き起こした事例もあり、使用は注意。
 Crit Care Med. 2020;48(1):83.

⑦副腎皮質コステロイド

ホルモン分泌阻害、T4→T3を阻害。
ヒドロコルチゾン300mg/day or デキサメタゾン8mg/day iv

⑧ダントロレン

UpToDateに記載あり。悪性高熱と同様の対応をする。

 

さらに臓器不全の状態で介入すべきことは

血漿交換>

絶対的適応:意識障害・肝不全
相対的適応:各薬剤で治療が出来ない甲状腺中毒が24-48時間持続する

<カテコラミン>

β刺激薬は使ってよさそうな書かれ方。おそらく初期はβブロッカーを使用するが、ショックではカテコラミンを使用しそう。

甲状腺クリーゼによる"ショック"の機序は・・・

カテコラミン感受性が亢進
→心筋の過収縮と頻脈+抵抗血管が拡張+シャント血流が上昇
→高拍出状態

末梢では組織酸素需要量が増加
十分な酸素等の補給がなされず組織代謝が障害される
仕事量が増大した心筋は最終的に疲弊して低心拍出性心不全をきたす
https://www.jcc.gr.jp/journal/backnumber/bk_jjc/pdf/J082-7.pdf より引用

ガイドライン2017にはミルリノンは使用するなと書いてある。「甲状腺クリーゼではβアドレナリン受容体の過剰刺激によるcAMPの産生亢進が起きるため、PDE3阻害薬はこれをさらに悪化させることになり、推奨しない」

果ては補助循環を使用する(Case Reportが散見されます)

麻酔管理の重要点

交感神経刺激を避ける!麻酔深度はしっかり深く、侵襲を抑える。
Basedow, 橋本病は重症筋無力症を合併しうる→筋弛緩モニタリングが妥当

 

以上になります。

経験がないと、ショックが進行してβブロッカー使用→ドブタミン使用へ切り替えるタイミングについて、イメージがつかみにくいですね。

ケースレポートをいくつかみても、最初はβブロッカーを使用していたが心停止して蘇生して集中治療室へ入ってカテコラミンを使って…というものが出てきます。

まとめ

・クリーゼは術後の方が起こりやすい

・麻酔方法はTIVA

・交感神経をしっかりおさえるために深い麻酔で侵襲を抑える

・筋弛緩モニタリングを行う

・頻脈時はランジオロール

ステロイド投与

アセトアミノフェンと冷却輸液で解熱

・ダントロレンも備えておく

・臓器障害があれば集中治療室へ

 

といったところでしょうか。参考になると幸いです。